精神科医で、内閣府障害者政策委員会委員でもいらっしゃる上野秀樹・千葉大学医学部付属病院地域医療連携部特任准教授が、新聞のインタビュー記事で、精神科病院について語っておられました。その内容は、日本ではなぜ、精神科の入院患者が多く、長期なのか?という問いに対するもので、それに対する回答として、「入院患者は病院にとっては収入源。緊急用の病床は必要だが、それ以外は国が強制的に減らすぐらいのことをしないと減らないだろうから、強力な政策誘導が必要」と話されていたのが、とても印象的でした。

 現在、日本国内で精神疾患で入院されている患者数は32万人を超えているそうです。そのうち、3分の2の人が入院期間は1年以上、5年以上の人は約11万人いるとのことでした。この入院期間は、他の先進諸国と比べると極めて長いことから、上野先生は精神医療のあり方に疑問を感じ、発言されるようになったということでした。

 上野先生の話によれば、1964年にライシャワー米国駐日大使が精神障害のある少年に刺される事件があり、『野放し』反対キャンペーンが起こったため、国が入院中心の医療へと舵を切ったことで病床が増え続け、精神科の入院患者が多くなっていくことになったということでした。そして、今も政策の根底には、『社会から隔離・収容する』という思想が流れていると思うということでした。実際、現場で治療をされていた時は、「入院させ、薬を使って患者を鎮静すれば、家族から感謝される」と思われていたそうで、「家族のための、社会防衛のための薬物療法だった」と振り返られておられました。

 その考えを変えたのが、5年ほど前から始めた認知症の人への訪問診療だったそうです。それまでは入院しないと治療ができないと思っていた人が、工夫をすれば外来や往診だけで対応できることがわかったということでした。以来、認知症の人への対応は、その人の症状や行動の原因を探り、そのメッセージを見極めて環境やケア、薬を調整すれば、入院しないでも改善すると実感されているということでした。しかし、それをそのまま精神医療に当てはめるのは大変なようで、「精神科病院の文化を消し去るのは本当に難しいこと」と仰っておられたのが、何より心に残りました。だから上野先生は、いろいろ発言されていこうと思われたのだなと、改めて思いました。

 地域で精神疾患の人を支えていく一端を担っている者として、精神医療のあり方について、もっと深く考えていくようにしたいと思いました